部下が素直に聞き入れる!関係性を壊さないフィードバックの伝え方
チームリーダーの皆さんは、部下へのフィードバックについて、次のような悩みを抱えたことはありませんか?
- 一生懸命伝えているのに、なかなか部下の行動が変わらない
- フィードバックをしたら、かえって部下のモチベーションが下がってしまった
- 改善点を伝えたいけれど、どう言えば角が立たないか分からない
- 良い点を伝えても、お世辞だと思われている気がする
フィードバックは、部下の成長を促し、チーム全体のパフォーマンスを高めるために欠かせないコミュニケーションです。しかし、その伝え方を間違えると、関係性を損ねたり、部下を萎縮させてしまったりする可能性があります。
この記事では、リーダーが自信を持って効果的なフィードバックを行い、部下の成長と信頼関係を同時に築くための具体的な方法を、実践的なフレーズやケーススタディを交えてご紹介します。
なぜフィードバックは難しいのか?
フィードバックが難しく感じられる主な理由はいくつかあります。
- 伝え方と受け取り方のギャップ: 伝える側は建設的な意図でも、受け手は批判と捉えてしまうことがあります。これは、言葉の選び方、声のトーン、表情などの非言語コミュニケーションが大きく影響します。
- 感情的な反応: 人は、自分の行動や評価に関わる情報に対して感情的に反応しやすいものです。特に改善点に関するフィードバックは、防衛的になったり、反発心を抱いたりする可能性があります。
- 一方通行になりがち: フィードバックが「評価の通告」のような一方的なものになると、部下は聞く耳を持たなくなり、対話が生まれにくくなります。
- 具体的な伝え方が分からない: 漠然とした評価(「もっと頑張って」「チームワークが足りない」など)では、部下は何をどう改善すれば良いか分かりません。
これらの難しさを乗り越えるためには、「相手に伝える」という視点だけでなく、「相手が受け取り、活かせる」という視点を持つことが重要です。
効果的なフィードバックの基本原則
部下の成長に繋がり、関係性を良好に保つためのフィードバックには、いくつかの基本原則があります。
- 目的を明確にする: 何のためにそのフィードバックをするのか(行動改善、スキル向上、モチベーションアップ、承認など)、自分の中で明確にして臨みます。
- タイムリーに行う: 行動や出来事から時間が経ちすぎると、具体性が失われ、部下も状況を思い出しにくくなります。できるだけ早いタイミングで行うのが効果的です。
- 具体的であること: 抽象的な評価ではなく、いつ、どこで、誰が、どのような行動をとり、その結果どうなったかを具体的に伝えます。
- 行動に焦点を当てる: 人格や性格ではなく、観測可能な行動についてフィードバックします。「あなたは〇〇な人だ」ではなく、「〇〇という行動があった」という形で伝えます。
- 肯定的・建設的なトーンで: 責めるような口調や批判的な態度は避け、成長を支援する立場であることを伝えます。ポジティブなフィードバックも改善点フィードバックも、同じように丁寧に行います。
- 双方向の対話を促す: フィードバックは一方的に話して終わりではなく、部下の考えや感じていることを聞く機会と捉えます。「なぜそのような行動をとったのか」「どう感じたか」「今後どうしていきたいか」などを問いかけ、対話を行います。
- 量とバランス: 一度に多くのことを伝えすぎると、部下は消化不良を起こします。伝えるべき点を絞り、また改善点だけでなくポジティブなフィードバックもバランスよく行うことが重要です。
実践!具体的なフィードバックの手法とフレーズ例
ポジティブフィードバック(承認・称賛)
良い点や成果を伝えることは、部下の自信やモチベーションを高め、望ましい行動を定着させるために非常に重要です。
ポイント: 具体的な行動とその結果(チームへの貢献など)を明確に伝えます。
フレーズ例:
- 「〇〇さん、先日のAプロジェクトでの資料作成、本当に助かりました。(具体的な行動) 特に、データ分析のパートは非常に分かりやすくまとめられていて、クライアントからも高い評価をいただけました。(具体的な結果/影響) チームとしても、スムーズにプレゼンを進めることができて感謝しています。(感謝と影響)」
- 「今日の定例ミーティングでの〇〇さんの発言、とても良かったですよ。(具体的な行動) 難しい課題に対して、他のメンバーとは違う視点からの意見を出してくれたことで、議論が深まりました。(具体的な結果/影響) 新しいアイデアが生まれるきっかけになりますし、多様な意見が出やすい雰囲気作りにも繋がります。(チームへの貢献)」
- 「期日内に報告書を提出してくれてありがとう。(具体的な行動) いつも正確かつ期日を守ってくれるので、後工程のスケジュールが組みやすく、チーム全体の業務効率が上がっています。(具体的な結果/影響)」
改善点フィードバック
部下の成長を促し、パフォーマンス向上に繋げるためのフィードバックです。感情的にならず、具体的な事実に基づいて、建設的な提案を行います。
効果的な手法:SBIモデル
SBIモデルは、「状況(Situation)」「行動(Behavior)」「影響(Impact)」の3つの要素でフィードバックを構成する手法です。非常に具体的で、受け手が事実として受け止めやすくなります。
- Situation(状況): いつ、どこで、どのような状況だったのかを客観的に伝えます。
- Behavior(行動): その状況で、具体的にどのような行動をとったのかを伝えます。(解釈や推測ではなく、事実として観察できた行動)
- Impact(影響): その行動が、自分や周囲、チーム、仕事の成果にどのような影響を与えたのかを伝えます。
SBIモデルを用いたフィードバック例(遅刻が多い部下へのフィードバック):
「〇〇さん、少しお話しできますか。(前置き) (S: 状況) 先週の月曜日と水曜日、そして今朝も、始業時間の9時を少し過ぎてからの出社だったと思います。 (B: 行動) ええ、10分から15分程度の遅れでした。 (I: 影響) 朝一番のMTGに〇〇さんが不在だと、その場で確認したいことができず、他のメンバーが業務を開始するのに遅れが出てしまいます。また、お客様からの電話を他のメンバーが対応することになり、それぞれの業務が中断されてしまうという影響が出ています。」
この後に続けること:
- 相手の考えを聞く:「何か理由があるのかな?」「どうして遅れてしまうことが多いんだろう?」
- 期待する行動を伝える:「始業時間には席にいて、いつでも業務を開始できる状態にいてほしいと思っています。」
- 解決策を一緒に考える:「何か困っていることはない?」「時間通りに来るために、何か一緒に考えられることはあるかな?」
- サポートを申し出る:「もし何か私にできることがあれば言ってください。」
SBIモデルを用いたフィードバック例(報告が不足しがちな部下へのフィードバック):
「〇〇さん、先日担当してもらったA社への提案資料の件で確認させてください。(前置き) (S: 状況) 提案書の提出期限が迫っているにも関わらず、資料作成の進捗について私への報告がありませんでした。(B: 行動) 最終的に資料は期日内に提出されましたが、途中で内容の確認や方向性のすり合わせをする機会が持てませんでした。 (I: 影響) そのため、提案資料の一部に顧客のニーズとのズレが生じてしまい、提出後の修正に時間がかかってしまいました。もし途中で進捗を報告してもらえていれば、早い段階で軌道修正できて、結果的に無駄な作業を減らせたと思います。」
この後に続けること:
- 報告・連絡・相談(ほうれんそう)の重要性を改めて伝える。
- 期待する頻度や内容を具体的に伝える(例:「週に一度は進捗状況を教えてほしい」「問題が発生したらすぐに報告してほしい」)。
- 報告しやすい方法を一緒に考える(例:チャットで簡単に、週報でまとめてなど)。
フレーズの言い換え表現
改善点を伝える際に、相手に受け入れられやすくなる言い換え表現をいくつかご紹介します。
- 「〇〇すべきです」 → 「〇〇してもらえると助かります」「〇〇すると、〜というメリットがあると思います」「〇〇するようにしてもらえると嬉しいな」 (指示ではなく、依頼や提案、期待、メリットを伝える)
- 「なぜ〇〇しなかったんだ」 → 「〇〇しなかった理由を聞かせてもらえる?」「〇〇について、何か困ったことはあった?」 (責めるのではなく、背景や理由を理解しようとする姿勢を示す)
- 「このやり方ではダメだ」 → 「この件については、△△というやり方の方が、〜という点でより効果的だと考えられます。一度試してみませんか?」「以前、似たようなケースで□□という方法をとったら上手くいったことがあるんだけど、どう思う?」 (否定ではなく、代替案や改善案を提案する)
- 「あなたはいつも〇〇だ」 → 「先日の〇〇の件で、△△という行動がありましたね」「ここ最近、〇〇という状況が続いているように見受けられます」 (人格や過去全般ではなく、特定の状況や行動に焦点を当てる)
ケーススタディ:チーム内のコミュニケーション活性化に関するフィードバック
状況: あるチームでは、一部のメンバーからの発言が少なく、会議で活発な意見交換ができていない状況です。チームリーダーは、もっと多様な意見を引き出し、メンバー一人ひとりが主体的に関わるチームにしたいと考えています。
リーダーのフィードバック:
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発言が少ないメンバーへ(Aさん): 「Aさん、いつも真面目に仕事に取り組んでくれてありがとう。先日のチームミーティングのことなんだけど、(S) あの場でいくつか議題について話し合った際に、(B) Aさんからは特に発言がなかったように思います。(I) Aさんが経験している現場の具体的な状況や感じていることが、他のメンバーにとっては非常に参考になる情報だと思うんだ。Aさんの意見を聞けないのは、チームにとって大きな損失だと感じています。(I) もし何か発言しにくい理由があれば教えてほしいし、どんな小さなことでもいいから、Aさんの考えや疑問、気づいたことなどをぜひ共有してもらえると嬉しいな。Aさんの視点はチームに新しい気づきを与えてくれると期待しています。」 → この後、発言しやすい雰囲気を作るためのチームの取り組み(例:ブレインストーミングの時間を設ける、少人数で話し合う機会を作るなど)についても話し合うと良いでしょう。
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特定のメンバーに発言が偏りがちな状況へのフィードバック(チーム全体へ、または特定のメンバーへ): 「皆さんに共有したいことがあります。最近のミーティングでは、いくつかの意見に集中して議論が進むことが多いように感じています。(S, Bの集合体) 活発な議論は素晴らしいのですが、一部のメンバーからの発言が少ない状況も見られます。(I) チームとしてより良い結論を出すためには、多様な視点からの意見が必要です。すべてのメンバーが安心して意見を言える場にしたいと考えています。(期待) 今後は、意識的に発言の機会を譲り合ったり、発言が少ないメンバーに『〇〇さん、どう思う?』と問いかけてみたりと、皆で対話を促進する工夫をしてみませんか。私もファシリテーターとして、皆さんの意見を引き出す努力をしていきます。」 → このように、状況とその影響を共有し、チーム全体で改善への意識を高めるように促すことも有効です。特定のメンバーがあまりに話しすぎる場合は、個別にSBIモデルを用いて伝えることも考えられます。
フィードバック後のフォローアップ
フィードバックは伝えて終わりではありません。部下がフィードバックを活かせるよう、継続的な関わりが重要です。
- 変化を観察し、再度フィードバックする: 改善が見られたら、すぐにポジティブなフィードバックを行い、その行動を承認します。「〇〇さん、先週お話しした△△の件だけど、今週はずっと期日より早く対応してくれているね。ありがとう!そのおかげで、〜〜という良い影響が出ているよ。」
- 状況を確認する: フィードバックした内容について、部下がその後どうしているか、困っていることはないかなどを定期的に確認します。
- 継続的な対話: 日頃から部下とコミュニケーションを密にし、信頼関係を築いておくことが、いざという時のフィードバックを受け入れやすくすることに繋がります。
まとめ
効果的なフィードバックは、単なる評価ではなく、部下の成長をサポートし、チームの信頼関係を築くための重要なコミュニケーションスキルです。
「目的を明確に、タイムリーに、具体的に、行動に焦点を当て、建設的なトーンで、そして双方向の対話を促す」。これらの原則を意識し、SBIモデルのようなフレームワークや具体的なフレーズを活用することで、フィードバックの質は格段に向上します。
部下一人ひとりの個性や状況に合わせた伝え方を工夫しながら、根気強く対話を重ねることで、きっとあなたのフィードバックは部下の心に響き、チーム全体の成長へと繋がっていくはずです。ぜひ、今日から一つずつ実践してみてください。