「思ってたのと違う」を防ぐ!期待値をすり合わせるコミュニケーション術
「言ったはずなのに、どうしてこうなるんだ…」
チームで仕事を進める中で、あなたはこのような経験をしたことがありませんか?指示した通りの結果にならなかったり、メンバーの認識と自分の期待にズレがあったり。こうした「思ってたのと違う」という状況は、職場の誤解やすれ違いの典型です。
特に、多様なメンバーが集まるチームでは、それぞれが異なる背景や考え方を持っています。そのため、意識してコミュニケーションを取らないと、自然と期待値のズレが生じやすくなります。このズレが、手戻りや人間関係の摩擦を引き起こし、チームの生産性を低下させる原因となることも少なくありません。
本記事では、職場のコミュニケーションにおける「期待値のすり合わせ」に焦点を当てます。期待値のズレがなぜ起こるのかを理解し、具体的なコミュニケーション手法やフレーズ、ケーススタディを通して、明日からすぐに実践できるスキルを習得することを目指します。期待値を明確にし、お互いの認識を一致させることで、誤解を減らし、チームの関係性をより円滑にしていくことができるでしょう。
期待値のズレが職場に与える影響
チームにおける期待値のズレは、様々な問題を引き起こします。
- 業務の非効率化: 指示内容に対する認識のズレから、意図しない作業が行われたり、品質基準が満たされなかったりして、大幅な手戻りが発生します。
- 信頼関係の低下: 「なんでわかってくれないんだ」「ちゃんと伝えたのに」といった不満が生じ、お互いへの信頼が損なわれる可能性があります。
- モチベーションの低下: 頑張って取り組んだ結果が期待と異なると、メンバーは徒労感を感じ、モチベーションが下がることがあります。
- チーム内の対立: 期待のズレからくる不満が表面化し、メンバー間やリーダーとメンバーの間で意見の対立や衝突が生じやすくなります。
これらの問題を防ぎ、スムーズなチーム運営を行うためには、日々のコミュニケーションの中で意識的に期待値をすり合わせるプロセスが不可欠です。
なぜ期待値はズレやすいのか?
期待値のズレが発生する主な原因はいくつか考えられます。
- 前提や背景知識の違い: リーダーにとっては常識でも、メンバーにとってはそうではない情報があります。過去の経緯や専門知識など、共有されていない前提があると、指示や依頼の意図が正しく伝わりません。
- 言葉の解釈の違い: 同じ言葉でも、人によって捉え方やニュア解釈が異なります。「なるべく早く」「ちゃんとやって」といった曖昧な表現は、特に解釈の幅が広がりやすく、期待値のズレを生みやすい傾向があります。
- 非言語情報の不足: 書面やチャットだけのコミュニケーションでは、声のトーンや表情といった非言語情報が伝わりにくく、意図やニュアンスが誤解されることがあります。
- 確認の不足: 指示や依頼をした側が「伝わっただろう」と思い込み、受けた側も「分かったつもり」になってしまい、お互いの認識が合っているかを確認するプロセスが抜けている場合にズレが生じます。
期待値をすり合わせるための具体的なコミュニケーション手法
期待値のズレを防ぐためには、以下の点を意識したコミュニケーションが重要です。
1. 指示や依頼の際には「5W1H+目的」を明確にする
ただ「〇〇しておいて」と伝えるのではなく、何(What)、誰が(Who)、いつまでに(When)、どこで(Where)、なぜ(Why)、どのように(How)を行うのか、そしてそのタスクの目的(Purpose)を具体的に伝えることが基本です。
- 「目的(Why, Purpose)」を伝える重要性: タスクの背景にある目的を伝えることで、メンバーはそのタスクの重要性を理解し、自律的に判断して最良の方法を選択しやすくなります。目的が共有されないと、単なる作業として捉えられ、期待した成果に繋がりにくいことがあります。
具体的な伝え方の例
- 曖昧な指示: 「来週中にあの資料まとめておいて」
- 期待値をすり合わせる指示: 「〇〇さん、今週金曜日(When)までに、来月のお客様との打ち合わせ(Purpose)で使う(Why)ための、前回の商談議事録と製品情報(What)を1つのPDF資料(How)にまとめてもらえませんか? 資料は共有フォルダの△△(Where)に入れてください。この資料は、お客様に製品のメリットを分かりやすく伝える重要なものです。」
2. 完了の定義と品質基準を具体的に共有する
「完了」「ちゃんとできている」の基準は人によって異なります。「いつまでに」だけでなく、「どのような状態になったら完了なのか」「どれくらいのレベルの品質を求めるのか」を具体的に伝えます。
- 完了の定義例:
- 「〇〇が承認されたら完了」
- 「関係者全員に情報が共有されたら完了」
- 「特定の報告書フォーマットに入力し終えたら完了」
- 品質基準の例:
- 「誤字脱字がなく、句読点も正しい状態」
- 「グラフが見やすく、一目で情報が把握できること」
- 「専門用語を使わず、誰にでも理解できる平易な言葉で書かれていること」
3. 相手の理解度を確認し、質問を促す
一方的に話すだけでなく、相手がどこまで理解したのか、認識にズレがないかを確認する時間を設けます。
- 確認のためのフレーズ例:
- 「ここまでの説明で、不明な点や気になることはありますか?」
- 「〇〇さんの方では、今お話しした内容をどのように理解されましたか?」
- 「もし、このやり方で難しい点があれば、遠慮なく教えてください。」
- 「念のため確認させてください。〜という認識で合っていますか?」
「分かった?」と聞くだけでは、「分からない」と言い出しにくい雰囲気を作ってしまうことがあります。「どこまで理解できたか」「何が不明か」を聞くことで、相手が安心して質問できる余地を作ることが大切です。
ケーススタディ:指示のズレを防ぐコミュニケーション
シナリオ
新任リーダーのAさんは、メンバーのBさんに「今月末までに、〇〇サービスの最新ユーザーデータを集計して、簡単にレポートにまとめてほしい」と依頼しました。Bさんは「分かりました」と返答し、作業を開始。期日になり提出されたレポートは、Aさんが想定していたもの(週ごとのアクティブユーザー数と主な利用機能別の傾向分析)とは異なり、単なる月次の総ユーザー数と登録者数の羅列でした。Aさんは「なんでこんな簡単なことしかやってないんだ」と感じ、Bさんは「言われた通りにやったのに」と不満を抱きました。
問題点
- Aさんの指示が曖昧だった(「最新ユーザーデータ」「簡単にレポート」)。
- Aさんは「週ごとの傾向分析」を期待していたが、具体的に伝えていなかった。
- Bさんは「集計」をデータ抽出・合計と解釈した。
- お互いに、レポートの具体的な内容や形式、期待する分析レベルを確認しなかった。
改善のためのコミュニケーション
Aさんは指示を出す際に、以下の点を加えるべきでした。
- 目的の共有: 「このレポートは、次期のサービス改善会議で、ユーザーの利用状況に基づいた具体的な改善策を検討するために必要なんです。」
- 期待する内容の具体化: 「レポートには、特に『週ごとのアクティブユーザー数の推移』と、『主要機能(例: 検索、投稿、いいね)の利用率や利用回数』を入れてほしいです。」
- 形式や分析レベルの示唆: 「フォーマットは特に指定しませんが、データはグラフなどで視覚的に分かりやすくまとめてもらえると助かります。簡単な傾向分析コメントもつけてもらえると、会議で説明しやすいです。」
- 確認の機会設定: 「この内容で、何か不明な点や、データ抽出で難しそうな点はありますか? 作業を進める中で方向性に迷ったら、遠慮なくいつでも相談してください。」
Bさんも「分かりました」で終えるのではなく、「レポートの具体的な内容や形式について、何か参考になる資料はありますか?」「集計するデータの範囲はどこまででしょうか?」など、確認の質問をすることが有効です。
ロールプレイング例(改善後)
Aさん: 「Bさん、来月のサービス改善会議に向けて、〇〇サービスの最新ユーザーデータを集計して、簡単にレポートにまとめてもらいたいのですが、お願いできますか?」 Bさん: 「はい、承知いたしました。」 Aさん: 「ありがとうございます。このレポートは、会議でユーザーの利用状況に基づいた具体的な改善策を検討するために必要なんです(目的)。特にレポートには、『週ごとのアクティブユーザー数の推移』と、『主要機能(例: 検索、投稿、いいね)の利用率や利用回数』を入れてもらえると、議論のベースになります(期待する内容)。フォーマットは特に指定しませんが、データはグラフなどで視覚的に分かりやすくまとめてもらえると助かります。簡単な傾向分析コメントも加えてもらえると、より会議で活用しやすいです(形式・分析レベル)。今月末までにお願いできますでしょうか?(期日)」 Bさん: 「承知いたしました。週ごとのアクティブユーザー数と主要機能の利用率、そして簡単な傾向分析ですね。グラフも入れて分かりやすくまとめます。念のため確認ですが、データは直近3ヶ月分でよろしいでしょうか?」 Aさん: 「はい、直近3ヶ月分で結構です。素晴らしい質問ですね、助かります。この内容で、何か不明な点や、データ抽出で難しそうな点はありますか? 作業を進める中で方向性に迷ったら、遠慮なくいつでも相談してください。」 Bさん: 「はい、大丈夫です。進める中で不明点があれば相談させていただきます。」
このように、指示の段階で期待値を具体的に共有し、相手からの質問を促すことで、後々の手戻りや誤解を大幅に減らすことができます。
期待値すり合わせを習慣化する
期待値のすり合わせは、一度行えば終わりではありません。特に、以下のような場合には意識的なすり合わせが重要です。
- 新しいプロジェクトやタスクを開始する時: 初期段階でしっかりと認識を合わせます。
- メンバーの役割や担当が変わる時: 新しい役割における期待を明確に伝えます。
- 課題が発生したり、計画変更が必要になった時: 状況変化に対する期待や対応方法を確認します。
- 定期的な1対1の面談(1on1): メンバーの成長や目標達成に向けた期待、日々の業務における困りごとなどを話し合い、認識を合わせる機会とします。
期待値のすり合わせは、単に指示を正確に伝える技術だけでなく、相手への配慮と、より良い結果を共に作り上げようという姿勢の表れです。このプロセスを通じて、メンバーは安心して業務に取り組めるようになり、リーダーへの信頼感も高まります。
まとめ
職場のコミュニケーションにおける「思ってたのと違う」は、期待値のズレから生まれることがほとんどです。このズレを減らすためには、指示や依頼の際に5W1H+目的、完了の定義、品質基準を明確に伝えること、そして何より、相手の理解度を確認し、質問しやすい雰囲気を作ることが重要です。
期待値のすり合わせは、時間のかかる作業に思えるかもしれません。しかし、事前に少し時間をかけて対話することで、後々の手戻りや人間関係のストレスを大幅に軽減し、結果としてチーム全体の生産性と満足度を高めることに繋がります。
ぜひ、この記事でご紹介した具体的な手法やフレーズを参考に、今日から職場で期待値をすり合わせるコミュニケーションを実践してみてください。お互いの認識が一致することで、よりスムーズで、互いを尊重できる人間関係が築かれていくはずです。