「言ったはずなのに…」をなくす!指示が正確に伝わるコミュニケーション技術
職場で部下やメンバーに指示を出した際、「思っていたのと違う」「言ったはずなのに伝わっていない」と感じた経験はありませんか。これは多くのチームリーダーが直面する課題です。指示が正確に伝わらないことは、作業の遅延や手戻りを招くだけでなく、チーム内の信頼関係にも影響を与えかねません。
この問題の根底には、コミュニケーションにおける「伝わったつもり」「理解したつもり」といったすれ違いが存在します。しかし、これらの誤解やすれ違いは、コミュニケーションの方法を少し工夫するだけで、大きく減らすことが可能です。
この記事では、なぜ指示が正確に伝わらないのか、その主な原因を明らかにし、指示を出す側と受ける側の双方が誤解なく円滑にコミュニケーションをとるための具体的な技術と実践方法をご紹介します。明日からすぐに職場で試せる、実践的なヒントが満載です。
指示が伝わらない主な原因:なぜ「言ったはずなのに」は起きるのか
指示が伝わらない原因は一つではありません。指示を出す側、受ける側、そしてその場の状況など、様々な要因が絡み合っています。代表的な原因を理解することで、対策を立てやすくなります。
伝える側の問題
- 指示が曖昧: 目的、期日、担当範囲、具体的に何をすれば良いのかなどが明確になっていない。
- 背景や目的の説明不足: なぜその指示が必要なのか、全体のどの部分を担うのかといった背景が伝わらないため、相手が意図を汲み取りにくい。
- 一方的な伝達: 相手が理解しているかを確認せず、一方的に話し終えてしまう。
- 専門用語の多用: 相手が理解できない可能性のある専門用語や社内用語をそのまま使用する。
受け取る側の問題
- 聞き漏らしや勘違い: 複数の指示が同時に出されたり、メモを取らずに聞いたりした場合に起こりやすい。
- 解釈の違い: 同じ言葉でも、受け取る側の知識や経験、状況によって意味合いが異なってしまう。
- 質問への遠慮: 指示が不明確でも、「分からなかったら評価が下がるかも」「忙しそうだから聞けない」といった理由で質問をためらってしまう。
- 理解したつもりの報告: 分かっていない部分があるのに、「大丈夫です」「分かりました」と答えてしまう。
コミュニケーション環境の問題
- 時間的な制約: 忙しい中で急いで指示を出したり、聞いたりすることで、十分に確認する時間が取れない。
- 周囲の騒音や中断: 集中して話を聞いたり、話したりできる環境ではない。
- ツールの限界: 口頭だけでは伝わりにくい内容、チャットやメールだとニュアンスが伝わりにくい内容がある。
指示を正確に伝えるための具体的なコミュニケーション技術
これらの原因を踏まえ、指示の誤解やすれ違いを減らすための具体的なコミュニケーション技術を見ていきましょう。重要なのは、伝える側だけでなく、受け取る側との間で「共通の理解」を築くプロセスを持つことです。
1. 指示を出す前の準備:何を伝えるか整理する
指示を出す前に、以下の点を明確にしておきましょう。
- 目的: なぜこの作業が必要なのか?何を目指すのか?
- 最終的な成果物: 具体的に何が完成すれば指示達成となるのか?
- 期日: いつまでに完了してほしいのか?途中経過の報告は必要か?
- 担当者: 誰が担当するのか?複数人の場合は役割分担は?
- 必要な情報・リソース: 作業を進める上で必要な資料、ツール、権限はあるか?
- 判断の基準や許容範囲: どこまで自分で判断して良いのか?迷った時の相談先は?
これらの情報が整理されているだけで、指示内容は格段に具体的になります。
2. 伝える時の工夫:分かりやすく、丁寧に
指示内容を整理したら、次は伝え方です。
- 結論から話す(目的や要件を最初に): まずは何をお願いしたいのか、なぜ必要なのかを最初に伝えます。「〇〇のプロジェクトに関連して、来週火曜日までに△△の資料を作成してほしい」のように、まず全体像を伝えると、相手は何をこれから聞くのかを把握しやすくなります。
- 具体的な言葉を使う: 「適当に」「なるべく早く」「良い感じに」といった曖昧な言葉は避け、「A4用紙1枚で」「明日の午前中までに」「〇〇のデータを参考に」のように、具体的な表現を使いましょう。
- 背景や目的を説明する: 「この資料は〇〇会議で使うため、判断材料となる△△のデータが必要なのです」「この作業は、お客様への報告資料の一部になるため、正確な数字が重要です」のように、背景や重要性を伝えることで、相手はその作業の意義を理解し、主体的に取り組むことができます。
- 専門用語は避けるか補足説明を入れる: 相手の知識レベルに合わせて言葉を選びます。もし専門用語を使う場合は、「この『アジャイル』というのは、短期間で開発と確認を繰り返す手法のことです」のように、簡単な補足説明を加えます。
- 一方的に話さない、相手の反応を見る: 話しながら、相手が頷いているか、表情が曇っていないか、といった反応を確認しましょう。理解できていなさそうな場合は、途中で「ここまでで何か不明な点はありますか?」と声をかけることも有効です。
3. 伝わったかどうかの確認:最も重要なプロセス
指示を「出した」だけでは、正確に「伝わった」とは言えません。ここが「言ったはずなのに…」を防ぐ最も重要なポイントです。
- 相手に復唱や要約を促す: 一方的に「質問はありますか?」と聞くだけでは、相手は遠慮してしまいがちです。そうではなく、こちらから理解度を確認する質問を投げかけます。
- 「今お願いした△△の件ですが、〇〇さんの方ではどのように進めようと考えていますか?」
- 「先ほどの指示内容について、一度〇〇さんの言葉でまとめてもらえますか?」
- 「特に期日と最終的なアウトプットについて、どのように理解されましたか?」 このように質問することで、相手は自分の理解を言葉にする必要があり、その過程で曖昧だった点が明確になったり、こちらが相手の誤解に気づけたりします。
- 重要な点はその場でメモを取ってもらう: 口頭での指示の場合、特に複雑な内容や複数の期日がある場合は、相手にその場でメモを取ってもらうことを促し、一緒に確認する時間を持つことも有効です。
- 補足資料やツールの活用: 口頭での指示の後、指示内容をまとめたメールやチャットを送る、関連資料の場所を伝えるなど、言葉以外の方法でも情報を補完することで、相手はいつでも内容を確認できます。
ケーススタディと実践例
具体的な状況を想定して、どのようにコミュニケーションを取るかを見てみましょう。
ケーススタディ1:期日が曖昧で作業漏れが発生した
- 状況: チームリーダーが部下に資料作成を依頼。口頭で「この資料、〇〇部長が来週必要らしいから、準備しておいて」と伝えた。部下は「来週中のどこかで良いだろう」と解釈し、他の優先度の高い作業を先に進めた結果、〇〇部長が必要とする日の前日になっても資料が完成していなかった。
- 問題点: 「来週必要」という期日が曖昧。具体的に「いつまで」が必要なのか伝わっていない。また、部下も確認を怠っている。
- 改善策:
- 伝える側: 「〇〇部長が来週月曜日の朝一番にこの資料を使うので、遅くとも来週金曜日までに完成させて、一度私に確認してもらえますか?」のように、具体的な期日と確認のタイミングを明確に伝える。目的(〇〇部長が使う)も伝える。
- 確認プロセス: 指示後、「来週金曜日まで、という認識で合っていますか?」「完成したら私に確認してもらう、という流れで大丈夫ですか?」と相手に確認を促す。相手に「金曜日までに完成させて、リーダーに確認をお願いします」と復唱してもらう。
ロールプレイング例:指示と確認の会話
【悪い例】 リーダー:「〇〇さん、この件お願いね。例のアレ、やっといて。」 部下:「はい、分かりました。」 リーダー:「じゃあ、よろしく。」 (数日後) リーダー:「あの件どうなった?まだ終わってないの?」 部下:「え、来週でいいと思ってました…」
【良い例】 リーダー:「〇〇さん、今週金曜日までに、△△のプロジェクトに関する日報をまとめてもらいたいんです。」 部下:「日報のまとめですね。はい。」 リーダー:「目的としては、来週月曜日の週次ミーティングで共有したいからです。特に、先週の課題に対する進捗状況と、今週の予定を具体的に含めてほしいです。」 部下:「承知しました。先週の課題への進捗と今週の予定ですね。」 リーダー:「そうです。形式は前回の週次ミーティングで使ったものを参考にしてください。何か不明な点や、進める上で困りそうなことはありますか?」 部下:「今のところ大丈夫です。金曜日までにまとめて、金曜日の午前中に一度リーダーにご確認いただけますでしょうか?」 リーダー:「はい、お願いします。何かあれば、金曜日の確認を待たずにいつでも相談してください。」 部下:「はい、分かりました。」
この良い例では、リーダーが目的、期日、具体的な内容を明確に伝え、さらに確認の機会を設け、相手からの復唱や質問を促しています。また、「いつでも相談してほしい」と心理的なハードルを下げる一言も加えています。
チーム全体の指示伝達力を高めるために(リーダーとしてできること)
チーム全体のコミュニケーション力を底上げすることも、指示伝達の誤解を減らす上で重要です。リーダーとして、以下のような働きかけができます。
- 「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)をしやすい雰囲気づくり: メンバーが気兼ねなく疑問点を確認したり、困っていることを相談したりできる心理的に安全な場を作ります。頭ごなしに否定せず、まずは傾聴する姿勢が重要です。
- 確認・復唱の習慣化を促す: 指示を受ける際に「〇〇という理解で合っていますか?」と確認したり、指示内容を復唱したりする習慣をチーム内で推奨します。これは能力が低いからではなく、誤解を防ぐためのプロフェッショナルな習慣であることを伝えます。
- 情報共有の場を設ける: 定期的なミーティングや情報共有ツールを活用し、メンバー間で同じ情報を共有する機会を増やします。指示の背景となる全体像が見えやすくなります。
- 成功事例・失敗事例を共有する: 「この前、〇〇さんが指示内容を復唱してくれたおかげで助かったよ」「以前、期日の伝え方が曖昧で手戻りが発生したことがあったよね」といった経験を共有し、チームとして学びを深めます。
まとめ:正確な指示伝達はチームの基盤
指示が正確に伝わることは、チームの生産性を高め、無駄な手戻りをなくし、メンバー間の信頼関係を築く上で非常に重要な基盤となります。「言ったはずなのに伝わらない」という悩みは、特別なことではありません。指示の出し方を少し工夫し、特に「伝わったかどうかの確認」プロセスを丁寧に行うことで、劇的に改善することが可能です。
この記事でご紹介した具体的な技術やフレーズを、ぜひ今日の職場から試してみてください。一つ一つの実践が、誤解の少ない、よりスムーズなチームコミュニケーションへと繋がっていくはずです。