チーム内の「なんだかギスギス」を解消!対立を乗り越える対話のヒント
チームを率いる上で、メンバー同士の意見の相違や、それが発展した小さな対立は避けられないものです。しかし、「なんだかチームの雰囲気がギスギスしているな」「あの二人の間には壁があるな」と感じながらも、どのように介入すれば良いのか分からず、そのままにしてしまってはいないでしょうか。
対立を放置することは、チームの生産性を低下させるだけでなく、メンバーの士気を下げ、最終的には組織全体の停滞を招く可能性があります。リーダーにとって、チーム内の対立に適切に対処し、建設的な方向へ導くコミュニケーションスキルは不可欠です。
この記事では、チーム内の対立を円滑に解消し、むしろチームの関係性を強化するきっかけとするための具体的な対話のヒントとステップをご紹介します。理論だけでなく、すぐに職場で試せる実践的なアプローチに焦点を当てます。
チーム内で対立が起こる主な原因
対立の原因は多岐にわたりますが、よくあるものとしては以下のような点が挙げられます。
- 価値観や考え方の違い: 仕事の進め方、優先順位、成果に対する考え方などが異なると、無意識のうちに衝突が生まれることがあります。
- 情報共有の不足や誤解: 必要な情報が伝わっていなかったり、伝え方が不適切だったりすることで、相手の行動に対する不信感や誤解が生じます。
- 役割や責任範囲の不明確さ: 誰が何をすべきかが曖昧だと、「なぜ自分がこれをやるんだ」「相手がやるべきなのに」といった不満が生じやすくなります。
- 個人的な感情や相性: 長時間一緒に働く中で、単純な性格の不一致や過去の出来事から感情的なわだかまりが生まれることもあります。
- 目標やゴールの認識のずれ: チーム全体の目標、あるいは個々の役割に対する目標設定にずれがあると、方向性の違いから摩擦が生じます。
リーダーとしては、対立の背景にあるこれらの原因を冷静に見極める視点を持つことが重要です。
対立解消に向けたリーダーの基本姿勢
対立に介入する際にリーダーが心がけるべき基本的な姿勢は以下の通りです。
- 感情的にならず、中立を保つ: どちらか一方の味方をするのではなく、冷静に状況を把握し、公平な立場で話を聞く姿勢を見せます。
- 非難ではなく、理解に努める: どちらが「正しい」「間違っている」というジャッジをするのではなく、なぜそのように考え、感じているのか、お互いの立場や背景を理解しようと努めます。
- 問題そのものに焦点を当てる: 個人的な攻撃や人格否定に陥らないよう、対立の原因となっている具体的な問題点や状況に焦点を絞ります。
- 解決と未来志向: 過去の非を責めるのではなく、どのようにすれば今後同様の問題を防げるか、チームとしてより良く活動できるか、解決策と前向きな未来に焦点を当てて対話を進めます。
対立解消のための具体的な対話ステップ
ここでは、リーダーが対立するメンバー間を仲介し、解決へと導くための具体的なステップと、それぞれのステップで使える対話のヒントをご紹介します。
ステップ1:個別の状況把握と傾聴
まずは、対立しているそれぞれのメンバーと個別に話す時間を持ちます。これは、各々が感じていること、事実だと認識していること、何を求めているのかを安全な場で話してもらうためです。
- 目的: それぞれの視点、感情、具体的な状況の把握。信頼関係の構築。
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対話のポイント:
- 相手が話しやすい雰囲気を作る。
- アクティブリスニング(相槌、うなずき、アイコンタクト)で、真剣に聞いている姿勢を示す。
- 相手の感情に寄り添う言葉をかける。「〇〇さんはそう感じていらっしゃるのですね」「それは辛かったですね」
- 非難せず、ただ事実と感情を聞くことに徹する。「具体的にどのような状況でしたか?」「その時、どのように感じましたか?」
- リーダーの意見や判断を挟まない。
- 聞いた内容の秘密保持に触れる(ただし、全員での対話時に共有する必要があるかもしれないことは示唆しておく)。
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使えるフレーズ例:
- 「少しお時間をいただけますか。最近、チームの〇〇(具体的な状況、例:AさんとBさんの連携)について、少し気になっていることがありまして。」
- 「まずは〇〇さんの視点から、何があったのか、率直に教えていただけますか?」
- 「その時、〇〇さんはどのように感じられましたか?」
- 「なるほど、〇〇さんはそう捉えていらっしゃったのですね。」
- 「他に何か、付け加えたいことや、伝えておきたいことはありますか?」
ステップ2:両者を交えた対話の準備
個別の話を聞いた後、必要に応じて両者が直接話し合う場を設けます。この際、対話の目的とルールを事前に伝えることが重要です。
- 目的: 誤解の解消、相互理解の促進、共同での解決策模索。
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対話のポイント:
- 参加者全員が合意できる日時、場所、時間を設定する。
- 対話の目的(例:お互いの状況理解を深め、今後のより良い連携方法を見つけること)を明確に伝える。
- 対話中の基本的なルールを設定する(例:相手の話は最後まで遮らずに聞く、人格攻撃や過去の非難はしない、事実に基づいて話す)。リーダーがファシリテーターとしてこれらのルールを守る責任を持つことを伝える。
- 感情的になりそうな場合は一時休憩を取るなどの対応を話し合っておく。
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使えるフレーズ例:
- 「〇〇さんと△△さん、先日それぞれからお話を伺いました。お互いの立場を理解し、今後のチームワークをより円滑にするために、三人で一緒に話し合う場を設けてはどうでしょうか?」
- 「話し合いの目的は、今回の件でお互いがどのように感じ、何を求めているのかを共有し、今後のチームでの連携について建設的に考えることです。」
- 「話し合いにあたっては、いくつかお願いがあります。お互いの話を最後まで聞くこと、そして問題解決に焦点を当てることです。私も皆さんが安心して話せるよう努めます。」
ステップ3:両者を交えた対話の進行(リーダーがファシリテーターとして)
両者が揃ったら、リーダーがファシリテーターとなり対話を進めます。
- 目的: 安全な場でオープンな対話を促し、相互理解と解決策の合意形成をサポートする。
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対話のポイント:
- 改めて対話の目的とルールを確認する。
- まずは、それぞれのメンバーに、個別の対話で話してもらったことの中から、相手に伝えたいこと(事実と感情)を簡潔に話してもらう(「〇〇さんからどうぞ」)。
- 話を聞いている側には、ただ聞くことに集中してもらう。反論は相手が話し終わってから。
- リーダーは、話された内容を要約したり、感情を言葉にしたりして、全員の理解を助ける。「つまり〇〇さんは、△△さんの〜という言動に対して、このように感じられたのですね?」
- 誤解があれば、その場で穏やかに修正する機会を作る。
- お互いの認識や感情を共有できたら、次に「では、今後同じような状況になった時に、どのようにすればよりスムーズに進められるか」という未来志向の話し合いに移る。
- 具体的な行動(誰が、何を、いつまでに行うか)を合意できるようサポートする。
- 合意内容を明確に確認し、必要であれば記録する。
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使えるフレーズ例:
- 「本日は、〇〇さんと△△さんにお集まりいただきました。目的は先ほどお伝えした通り、今回の件を乗り越え、今後より気持ちよく仕事を進めるための方法を一緒に考えることです。」
- 「まずは〇〇さんから、△△さんに伝えておきたいこと、知ってほしいことをお話しいただけますか。」
- (〇〇さんが話し終えたら)「〇〇さん、お話しいただきありがとうございます。△△さん、〇〇さんの話を聞いて、いかがですか?感じたことや、伝えたいことがあればお話しください。」
- 「今のお話を聞いて、お二人の間で〇〇という点に認識のずれがあったように感じました。この点は合っていますか?」
- 「これからは、お互いが気持ちよく仕事を進めるために、どのような工夫ができそうでしょうか?」
- 「〇〇さんが△△さんに期待することはありますか?△△さんが〇〇さんに協力できることはありますか?」
- 「では、今後のアクションとして、〇〇さんは〜を、△△さんは〜を、△月△日までにやってみるということでよろしいでしょうか?」
- 「今日の話し合いで決まったことは、〜です。これをチームとしても確認しておきましょう。」
ステップ4:合意事項の確認とフォローアップ
話し合いで決まったこと、合意した行動は明確に確認し、その後実行されているかフォローアップを行います。
- 目的: 合意の確実な実行と、再発防止。
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対話のポイント:
- 話し合いの最後に、合意内容を改めて全員で確認する。
- 必要であれば、議事録として簡単なメモを残し共有する。
- しばらく期間をおいてから、関係性に変化があったか、合意した行動は実行されているかなど、個別に、またはチーム全体でフォローアップする機会を持つ。
- 対立が完全に解消されなくても、対話の機会を持ったこと自体を肯定的に捉え、お互いの努力を労う。
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使えるフレーズ例:
- 「本日の話し合いの結果、今後〇〇の件については、△△という進め方でやっていく、ということで合意できました。皆さん、改めて確認をお願いします。」
- 「今日の話し合いはとても重要でした。皆さん、お互いのために向き合ってくださり、ありがとうございます。」
- (後日)「先日お話しした件、その後状況はいかがですか?何か変化はありましたか?」
ケーススタディ:タスク分担での対立
状況設定:
プロジェクトのタスク分担を巡って、メンバーのAさんとBさんが対立しています。Aさんは「Bさんが自分の仕事を引き受けてくれないせいで、自分の負担が増えている」と感じており、Bさんは「Aさんから頼まれたことは自分の担当外であり、他のタスクで手一杯だ」と考えています。お互いに直接話すことを避け、チーム全体の雰囲気が悪くなっています。
リーダーの介入(ロールプレイング例):
ステップ1:Aさんとの個別対話
リーダー:「Aさん、少しお時間いいですか?最近、プロジェクトの〇〇(具体的なタスク名や状況)について、何か気にになっていることはありますか?」 Aさん:「実は、Bさんとの連携で少し困っているんです。先日、〇〇のタスクでBさんに手伝ってほしいとお願いしたんですが、けんもほろろな感じで断られてしまって…。結局自分で抱え込むことになって、正直負担が大きくて。」 リーダー:「そうだったんですね。Bさんに手伝いを断られて、負担が増えてしまったと。それは大変でしたね。その時、Aさんはどのように感じましたか?」 Aさん:「期待していたのに断られて、少しがっかりしましたし、自分の仕事がちゃんと回るか不安になりました。なんだか、協力してもらえないのかなって。」 リーダー:「がっかりしたり、不安を感じられたのですね。Aさんとしては、具体的にBさんにどのような協力をお願いしたかったのですか?」 Aさん:「〇〇のデータ整理をお願いしたかったんです。前にBさんが同じような作業をやっていたのを見たことがあったので。でも、『私の仕事じゃない』って言われてしまって。」 リーダー:「なるほど、データ整理をお願いしたかったのですね。分かりました。Aさんの状況と気持ちを理解しました。Bさんにも、同様に状況を聞いてみようと思います。」
ステップ1:Bさんとの個別対話
リーダー:「Bさん、少しお時間いいですか?プロジェクトの〇〇(具体的なタスク名や状況)について、お話ししたいことがあるのですが。」 Bさん:「はい、何でしょうか?」 リーダー:「先日、Aさんから〇〇のデータ整理について依頼があったそうですね。その時、Bさんから見てどのような状況でしたか?率直に教えていただけますか。」 Bさん:「ええ、Aさんから急に『データ整理お願い』って言われたんです。でも、その時は自分の担当している〇〇の作業が締め切り間近で、正直手が回る状況じゃありませんでした。それに、データ整理は私の担当範囲ではない認識でしたので、『すみません、できません』とお断りしました。」 リーダー:「なるほど、ご自身のタスクで手一杯だったこと、そしてその作業がご自身の担当外だと認識されていたのですね。その時、Bさんはどのように感じましたか?」 Bさん:「急な依頼で焦りましたし、『なぜ私に?』という気持ちもありました。手伝えないこと自体は申し訳ないと思ったのですが、自分のやるべきことに集中するしかない、と。」 リーダー:「お気持ち、理解しました。急な依頼でご自身のタスクにも影響が出そうだったのですね。Aさんからも話を聞きました。お二人の間で、タスクの認識や依頼の仕方について、少しすれ違いがあったように感じました。よろしければ、三人で一度、今回の件と今後の連携について話し合う機会を持ちませんか?」
ステップ2&3:三人での対話
リーダー:「本日はお忙しいところ、お二人に集まっていただきました。先日の〇〇の件について、お互いの状況を理解し、今後どうすれば連携がスムーズにできるかを一緒に考えたいと思います。まず、Aさんから、Bさんに伝えておきたいこと、知ってほしいことをお話しいただけますか。」 Aさん:「Bさん、先日はデータ整理のお願いをしたのですが、突然だった上に、Bさんの状況を把握せずに依頼してしまってすみませんでした。手伝ってもらえなかった時に、自分のタスクが間に合うか不安になり、少し感情的になってしまいました。」 リーダー:「Aさん、率直な気持ちを共有してくださりありがとうございます。Bさん、Aさんの話を聞いていかがですか?」 Bさん:「Aさん、謝罪いただきありがとうございます。私も、もう少し状況を説明すればよかったですね。あの時は本当に自分のタスクでいっぱいで、依頼を受けてしまうとそちらに穴を開けてしまう状況でした。担当外という認識もありました。」 リーダー:「お二人とも、お互いの状況と気持ちを理解しようとしてくださり、ありがとうございます。AさんはBさんの状況を知らずに依頼してしまい、Bさんはご自身のタスクで手一杯で担当外の依頼だった、というすれ違いがあったのですね。では、今後、同じような状況になった時に、どうすればお互い気持ちよく連携できるか、一緒に考えてみませんか?例えば、〇〇のタスクの担当範囲を明確にするとか、依頼する時は早めに相談するとか…」 Aさん:「そうですね、今後は急にお願いするのではなく、早めに相談するようにします。Bさんの状況も確認します。」 Bさん:「ありがとうございます。私も、もし手が空いていたり、少しの協力ならできたりする場合は、『今は難しいけれど、〇〇の件が終わったら少し見られます』とか、『〇〇さんなら詳しいかもしれない』といった代替案を伝えるようにします。」 リーダー:「素晴らしいですね!担当範囲の明確化はチームとしても検討しましょう。そして、依頼する側は余裕を持って相談する、依頼される側は難しければ状況と代替案を伝える、というルールを試してみてはどうでしょうか?お二人の間でこの点について合意できますか?」 Aさん・Bさん:「はい、合意します。」 リーダー:「ありがとうございます。今回の件は、お互いの状況を理解する良い機会になったと思います。これから、この合意内容を実践してみてください。また何かあれば、いつでも相談してくださいね。」
ステップ4:フォローアップ
(一週間後、リーダーがAさんとBさんに個別に声をかける) リーダー:「Aさん、先日話し合った〇〇の件、その後Bさんとの連携で何か変化はありましたか?」 Aさん:「はい、Bさんに何か頼みたい時は、事前に『少し相談いいですか』と声をかけるようにしています。Bさんも、以前より話しやすくなった気がします。」 リーダー:「それは良かったですね!Bさんにも同様に聞いてみましょう。」 (Bさんとの対話) リーダー:「Bさん、先日のAさんとの話し合いの後、Aさんからの依頼の仕方などに変化はありましたか?」 Bさん:「はい、以前のように一方的に頼まれるのではなく、まず『相談』という形で来てくれるので、自分の状況も伝えやすくなりました。お互いに気を遣えるようになったと思います。」 リーダー:「お二人とも、早速実践してくださりありがとうございます。この調子で、今後も何かあれば遠慮なく話し合ったり、私にも相談してください。」
対立を予防し、チームワークを強化するために
対立が起きてからの対処も重要ですが、日頃から対立が起こりにくいチーム環境を作ることもリーダーの大切な役割です。
- 定期的な1on1: メンバー一人ひとりと定期的に話す時間を持つことで、小さな懸念や不満が大きくなる前に察知し、対処できます。
- オープンなコミュニケーションの文化醸成: 誰もが安心して意見を言えたり、困っていることを相談できたりする雰囲気を作ります。「心理的安全性」の高いチームを目指しましょう。
- 情報共有の徹底: チーム全体で必要な情報が適切に共有されているか確認します。朝礼や定例会議で、各自の状況や課題を共有する時間を設けるのも効果的です。
- チーム目標と個人の役割の明確化: チームとしてどこを目指すのか、そのためには一人ひとりがどのような役割を果たす必要があるのかを明確にし、定期的に確認します。
- 建設的なフィードバックの習慣: ポジティブな点だけでなく、改善が必要な点についても、人格を否定せず行動に焦点を当てたフィードバックを日常的に行います。
まとめ:対立はチームを成長させるチャンス
チーム内の対立は、避けたいと感じるかもしれません。しかし、それは必ずしもネガティブなものではありません。対立の背景にある原因を理解し、適切に対話し、乗り越える過程は、お互いの理解を深め、チームの関係性をより強く、より成熟したものにするチャンスでもあります。
リーダーとして、対立から目を背けるのではなく、勇気を持って介入し、メンバー間の対話をサポートしてください。今回ご紹介した具体的なステップやフレーズが、あなたのチームの「ギスギス」を解消し、より生産的で良好な人間関係を築く一助となれば幸いです。
明日から、ぜひチーム内の小さなサインに気づき、対話の一歩を踏み出してみてください。