チームの信頼を深める!リーダーのための承認コミュニケーション
メンバーのやる気を引き出す「承認」の力
チームを率いる中で、「どうすればメンバーはもっと主体的に動いてくれるだろうか?」「頑張っているのに、なかなか報われていると感じてもらえないのではないか?」といった悩みを抱えるリーダーは少なくありません。特に、技術職からリーダーになった方など、これまでの役割とは異なる「人」との関わりに難しさを感じることもあるかもしれません。
こうしたチームの活性化やメンバーのモチベーション向上において、非常に有効なコミュニケーション手法が「承認」です。承認は単に褒めることとは異なり、相手の存在や行動、成果を「認める」行為です。適切に行われる承認は、メンバーの自己肯定感を高め、チームへの貢献意欲を強め、結果としてチーム全体の信頼関係とパフォーマンス向上に繋がります。
この記事では、チームリーダーが実践できる承認の具体的な方法と、明日からすぐに使えるフレーズ、そしてケーススタディを通して、承認の力を最大限に引き出すヒントをお伝えします。
承認がチームにもたらす効果とは
リーダーからの適切な承認は、メンバーに以下のようなポジティブな影響を与えます。
- モチベーション向上: 自分の貢献が認められていると感じることで、「もっと頑張ろう」という意欲が湧きます。
- 自己肯定感の向上: 自分の能力や価値を肯定的に捉えられるようになり、自信を持って業務に取り組めるようになります。
- エンゲージメント強化: チームや会社に対する愛着や貢献意欲が高まり、主体的な行動が増えます。
- 信頼関係の構築: リーダーが自分を見てくれている、理解しようとしてくれていると感じることで、リーダーへの信頼が深まります。
- 心理的安全性の向上: 失敗を恐れずに挑戦できる、困難な状況でも助けを求めやすいといった、安心して働ける環境づくりに繋がります。
これらの効果は、指示が通りやすくなったり、報連相が円滑になったり、チーム内の対立が減ったりと、日々のコミュニケーション課題の解決にも大きく貢献します。
承認の種類:何を見て「認める」か?
承認と一言で言っても、焦点を当てる対象によっていくつかの種類があります。これらをバランスよく使い分けることが重要です。
1. 結果承認(Achievement Recognition)
達成された成果や目標達成を認める承認です。「目標を達成した」「売上〇〇円を達成した」「プロジェクトを成功させた」といった、目に見える結果に対する承認です。
- 効果: 達成感を高め、目標達成に向けた努力を促します。
- 注意点: 結果が出なかった場合のモチベーション低下に繋がる可能性があるため、これだけに偏らないようにします。
2. プロセス承認(Process Recognition)
成果に至るまでのプロセス、つまり努力、工夫、粘り強さ、貢献行動などを認める承認です。例えば、「〇〇の課題に対して粘り強く原因を究明してくれたこと」「難しい調整を根気強く進めてくれたこと」「新しいツール習得のために自主的に学習していたこと」などです。
- 効果: 結果が出なくても努力が認められることで、挑戦意欲や継続する力を養います。成功体験だけでなく、失敗から学ぶプロセスも肯定的に捉えられるようになります。
- 注意点: プロセスだけを承認しすぎると、結果へのコミットメントが弱まる可能性もゼロではありません。
3. 存在承認(Existence Recognition)
成果やプロセスに関わらず、その人が「そこにいること」「チームの一員であること」自体を認める承認です。「いつも遅くまでありがとう」「〇〇さんがいてくれて助かるよ」「体調は大丈夫?」といった、日頃の声かけや気遣い、その人の存在そのものへの感謝などを含みます。
- 効果: メンバーは「自分はチームに必要な存在だ」と感じ、安心感や居場所を得られます。深い信頼関係の基盤となります。
- 注意点: 形式的にならないよう、真心を込めて伝えることが大切です。
これら3つの承認を、状況やメンバーの特性に応じて適切に使い分けることが、効果的な承認コミュニケーションの鍵となります。特に、目に見えにくいプロセスや、日々の存在への承認は、メンバーの安心感と信頼感を育む上で非常に重要です。
明日から使える!具体的な承認フレーズ集
承認を効果的に行うためには、具体的な状況に合わせて、どのような言葉で伝えるかが重要です。ここでは、いくつかのシーンで使えるフレーズ例をご紹介します。
ケース1:期限内に難しいタスクを完了したメンバーへ(結果+プロセス承認)
- 「〇〇さん、先日の△△の件、難しい調整も多かったと思いますが、期日までに見事に完了させてくれて本当にありがとう。 特に、関係部署との〇〇の部分、粘り強く対応してくれたおかげです。助かりました。」
- (結果:期日内完了)
- (プロセス:難しい調整、粘り強い対応)
- (感謝と助かったというリーダー自身の気持ち)
ケース2:新しい業務やツール習得に苦労しながらも取り組んでいるメンバーへ(プロセス承認)
- 「〇〇さん、新しい××システムへの移行、大変だと思いますが、積極的に操作を覚えようと努力してくれてるのがよく分かります。 この間の質問も的確だったね。その頑張り、必ず今後の力になるからね。何か困ったことがあったらいつでも聞いてください。」
- (プロセス:積極的な努力、的確な質問)
- (励ましと未来への期待)
- (サポートの申し出)
ケース3:チームのために率先して雑務やサポートを買って出たメンバーへ(プロセス+存在承認)
- 「〇〇さん、さっきの会議の準備、あなたがすぐに動いてくれたおかげでスムーズに進みました。 いつもチームのために、みんなが気づかないようなところまで気を配ってくれてありがとう。 〇〇さんのそういう気遣い、チームにとって本当にありがたいよ。」
- (プロセス:率先した行動、気配り)
- (存在:チームへの貢献、気遣いへの感謝)
- (その貢献がチームにとって価値があることの明示)
ケース4:日頃から安定して真面目に業務に取り組んでいるメンバーへ(存在+プロセス承認)
- 「〇〇さん、いつも黙々と、正確な仕事を続けてくれてありがとう。 当たり前のように思われるかもしれないけれど、〇〇さんの安定した仕事ぶりがあるからこそ、チーム全体が安心して業務を進められています。 本当に頼りにしています。」
- (存在:日頃の安定した仕事ぶり)
- (プロセス:正確さ、継続性)
- (その存在がチームに与える良い影響)
ポイント: * 「〇〇さん」と個人名を呼ぶ。 * 具体的に「何を」承認するのかを明確にする(「頑張ったね」だけでなく、「〇〇の△△のところが頑張りだったね」)。 * その行動や存在が「チームにとって」「私にとって」どういう価値があったのかを伝える。 * リーダー自身の感情や感謝の気持ちを添える(「助かったよ」「ありがとう」「頼りにしている」など)。 * できるだけタイムリーに伝える。
NGな承認と避けるべき表現
せっかく承認しても、伝え方によっては逆効果になることもあります。以下のような表現は避けるようにしましょう。
- 他のメンバーと比較する: 「〇〇さんは△△さんより良くやったね」→比較された側も、された側も良い気持ちになりません。
- 「〜だけど」「〜ならもっと」と条件をつける: 「今回はよくやったけど、次はもっと早くね」→承認の後に課題や改善点を加えると、承認の効果が薄れます。「でも」「しかし」といった逆接も同様です。改善点を伝えるのは別の機会にしましょう。
- 定型的・表面的な言葉: 「はいはい、頑張ってるね」「みんな頑張ってるよ」→具体性がなく、真剣に見てくれていないと感じさせてしまいます。
- 過去の失敗を持ち出す: 「前は失敗したけど、今回は成功したね」→過去の失敗を蒸し返す必要はありません。
- 成果だけを問う: 結果が出なかったメンバーに「今回ダメだったね」だけで終わる→プロセスやそこからの学びに目を向けましょう。
ケーススタディ:承認で変わるチームの雰囲気
ある中小企業の開発チームでは、新しいシステムの納期が迫り、メンバーに疲労の色が見え始めていました。リーダーのAさんは、以前は成果に対してのみ評価の言葉をかけていましたが、最近コミュニケーション研修で承認の重要性を学んだことを思い出し、意識的に承認を取り入れることにしました。
【状況】 * メンバーのBさんが、通常業務に加え、新しいシステムの開発で設計上の難しい課題に直面し、残業して解決策を探している。 * チーム全体にピリピリした空気が流れ始めている。
【Aさんの以前の対応】 「Bさん、あの設計の件、早く目処をつけてくれる?納期がないんだから。」(結果・納期へのプレッシャー)
【Aさんの新しい対応(承認を取り入れる)】 AさんはBさんの席に行き、声をかけました。
「Bさん、遅くまでお疲れ様です。あの設計の課題、かなり難しいのに、根気強く原因を探ってくれてるのが伝わってきます。大変な時だと思うけど、その粘り強さ、本当に助かるし、チームの模範になっていますよ。何か手伝えることや、話し相手が必要ならいつでも言ってくださいね。」
【結果】 Bさんは少し驚いた様子でしたが、「ありがとうございます。もう少しで光が見えそうなので頑張ります!」と、少し表情が和らぎました。Aさんは他のメンバーにも、設計レビューのために資料を早めに準備してくれたこと、会議室の片付けを率先して行ってくれたことなど、小さな貢献も見つけて声をかけるようにしました。
数日後、チームの雰囲気は以前より柔らかくなり、メンバー同士で声をかけ合う姿も増えました。Bさんも無事課題を解決し、システム開発は納期に間に合いました。Aさんは、承認が単なるおべんちゃらではなく、メンバーのモチベーションとチームの連帯感を高める強力なツールであることを実感しました。
承認を日常の習慣にするために
承認は、特別な時に行うものではなく、日々のコミュニケーションの中で自然に行われることが理想です。そのために、以下のことを意識してみてください。
- 「承認センサー」をオンにする: メンバーの行動や発言を、意図的に「承認できるポイントはないか?」という視点で観察する習慣をつける。
- まずは小さなことから: 大げさな成果だけでなく、日々の小さな努力や貢献、存在そのものに対する感謝など、些細なことから承認してみる。
- 定例ミーティングで取り上げる: チームミーティングの冒頭などで、「今週のGood & Thanks」のように、メンバー間の承認をシェアする時間を設ける。
- フィードバックと組み合わせる: 改善点を伝える際にも、必ず良い点(承認できる点)をセットで伝えるようにする(ただし、「〜だけど」を使わない)。
- 自己承認も大切に: 自分の頑張りやチームへの貢献も自分で認め、自信を持つことが、メンバーへの自然な承認に繋がります。
まとめ
チームリーダーにとって、メンバーへの承認は、単に気分を良くさせるためだけではなく、チームのパフォーマンスを高め、信頼関係を築くための重要なコミュニケーションスキルです。結果だけでなく、プロセスや存在そのものを認め、具体的でタイムリーに伝えることで、メンバーは「自分はチームに必要な存在だ」「自分の努力は無駄ではない」と感じることができます。
今日から、あなたのチームでも「承認センサー」をオンにして、メンバーの素晴らしい部分を見つけ、言葉にして伝えてみませんか。その小さな一歩が、チームの信頼を深め、より強く、より一体感のあるチームへと繋がるはずです。